9.ぴえんってなんやねん【ワケあり勇者】

→8.拳を交え、心を通わせ へ戻る

 

 

 一人残されたリトはしばらくボーっとしていたが、冷たい夜風が吹いて体を震わせる。

 

「うう寒い。ジークの言うことを大人しく聞いて、今日はもう休むか……」

 

 自らの肩を抱くように擦ると、歩みを城へと移す。

 

(なんだか変な感じだ。この城へ忍び込んだ時は、こんなことになるだなんて思ってなかったのに)

 

 魔王であるジークを討とうとして、見初められてしまった。

 彼の本心がどこにあるのか、その目的もリトには見当つかないがおかしなことになっているのはわかる。

 

(これからアタシはどうしたらいいのかなぁ。このままじゃいけないよなぁ……。だって、こうしている間にも家族や村の人たちは肩身の狭い思いをしている)

 

 村で過ごしている間、何度もひもじい思いをした。

 いつも少ない木の実を分け合って、お腹いっぱい食べられた記憶はほとんどない。

 小リス族であることを隠して旅をしていた理由も、一族に迷惑をかけてはいけないという掟があるからだ。これ以上、名を汚してはいけない。

 小リス族にとって、家族はなによりも大切な存在だ。

 その深い愛情のおかげで、前世の記憶を思い出しても辛い気持ちになることは少なかった。

 

(ジークには……家族っているんだろうか……)

 

 ふと、ジークの物悲しい表情を思い出す。

 

『この城には私の背中を預けられるものがいません』

 

 腕を組み、首をひねった。

 

(それって城に信頼できるやつがいないってこと? それって寂しいことじゃないのか? それに……そんなこと出会ったばっかのアタシに言ってよかったのかなぁ……。魔王だけど、王様がひとりきりだなんて、他所の国にバレたら危険なんじゃないのか?)

 

 うんうんと唸ったが、リトの頭で答えが出るはずもなく、いろいろな悩みを抱えたまま部屋へ戻ることとなった。

 

 翌朝。

 リトは気持ちよくベッドで眠っていた。

 こんなにも気持ちのよいベッドで眠れた経験がないため熟睡である。

 小リス族は移動民族。

 そのためふかふかのベッドなんて夢のまた夢。村を飛び出した後も、貧乏旅だったため基本的に野宿で過ごすことが多かった。

 

「すぅー……ピ~~~~。……ジ、ジーク……そんなに料理を並べても、全部食べきれない……ゾ」

 

 呑気な寝息と寝言で夢の中を満喫している。

 が、突然、大きな音を立てて天井が崩壊した。

 

「な、なんだ!?」

 

 さすがのリトも飛び起き、砂埃たち上がる部屋をキョロキョロと見る。

 かわいらしい家具がバラバラになり、ベッドの天幕も破れてしまっていた。

 砂埃の中、うっすらと人影が見え、リトは構える。

 目をこらすとショッキングピンクのツインテールをした女の子が姿を現した。

 

「へ?」

 

 白い肌、キリッとした目元にピンクの瞳。ふっくらとした唇には黒いリップ。

 それに漆黒のレースをたっぷり使ったドレスを身に纏った、一言でいうならばゴスロリ少女がチョコンとそこに立っていたのだ。

 リトは少女を震えながら指さす。

 

「アンタ、誰?」

 

 尋ねられ、少女はにっこりとした。

 大きく「すぅうう」と息を吸いこむ。

 

「誰とはこっちのセリフじゃボケ! ジークさまをたぶらかした山ザルとはおどれか!!」

 

「?!」

 

 見た目とは違い、中指を立てて巻き舌交じりに威嚇してくる少女にリトは完全に戦意を消失してしまった。

 怖くて口をキュッと結び、内股になるリトに少女は迫っていく。

 

「おうおう、かわいこぶってんちゃうぞ、ワレ!」

 

「ひぃっ……」

 

(なに、この娘、怖い。どうしてアタシが急に絡まれてるの。っていうか、山ザルじゃないし、小リスだし……)

 

 ツッコむ勇気もない。

 すると、扉の向こうでドタドタと音がしたと思うと、扉が開けはなたれた。

 ジークと、四人の仮面メイドである。

 

(ジーク!)

 

 表情を明るくさせるリトだが、視界に影が動いた。

 さきほどまでイキりちらしていた少女が、リトの前に出たのである。

 

「あーん、ジークさまぁ。ローゼリア、こわかったぁ。ぴえん」

 

 巻き舌を感じさせない、甘い声を出した少女――ローゼリアにリトは固まった。

 

(ぴえん……?)

 

Follow me!

Share

    One thought on “9.ぴえんってなんやねん【ワケあり勇者】

    この投稿はコメントできません。