7.魔王はスケスケがお好き【ワケあり勇者】

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 子リス族は小さな移動民族であるがそれでも老人から乳飲み子まで四十人ほどいる。その一人ひとりが大食漢なのだ。過去、一つの場所に留まった経験はリトの記憶にはない。実りのある春の土地を点々と移動し、一度訪れた場所には短くとも五年は足を踏み込まないという掟があった。子リス族が節度のある種族だとリトは理解しているが、一つの場所に留まることができるのか、それによって起こる弊害を想像することすらできない。

 

「アタシじゃ、それは判断できない……。ただ、聞かせてほしい。アンタがアタシを妻にしたいから、仲間にしたいからそこまで言ってくれるのか」

 

「もちろんそうです」

 

 あっけらかんと答えるジークにリトは拍子抜けして椅子からころげ落ちそうになった。

 

「ですが、さすがの私でもそれだけでここまで言いません。子リス族は真面目で誠実な民族だと聞いています。それがきっとこの堕落した魔族の国に新しい風を送り込むのではないかと私は考えているのです。――それにリトが信じる家族なのであれば、きっと悪い人たちではないでしょう」

 

「魔王……」

 

(案外、悪いヤツじゃないのかも……)

 

 思いなおしたリトの気持ちも知らず、魔王は小さな声でブツブツと呟いた。

 

「それより気になるのは『魔王のせいで流通が滞っている』という話ですね……。まあそれはこちらで調べるといたしましょう。食事の続きをどうぞ。せっかくの料理が冷めてしまいますよ」

 

 ジークに促され、リトは皿を再び見た。

 

(……こんなに真剣な話をした後に食事が進むわけ――あるから悲しい!)

 

 お肉に手を伸ばし、貪りつく。

 

「うう~! おいしい~~!」

 

***

 

 

 リトは一人廊下を歩きながらブツクサ言っていた。

 

「くっそ~、魔王のヤツ……動きやすい服をくれって言ったらあんなもの渡しやがって……」

 

 ついさっきのことだ。

 食事を終えた頃、窓の外はとっぷり日が暮れていた。

 部屋で休むようにと伝えられたリトはドレスの裾を摘まみ上げ、ジークに激しく抗議したのだ。

 

「部屋で休めと言われてもこんなドレスじゃおちおち眠れないぞ! せめてもっと軽い服を寄こせ!」

 

「軽い服……ですか? うーむ」

 

 なにか閃いたのか、ぱちりと指を鳴らすと煙が辺りを包んだ。どうやら魔法でなにかを取り出したらしい。

 

「こういうのはいかがですか?」

 

 その手に持っているのは、スケスケピンクのベビードールだった。

 

「バカヤローッ!!」

 

 出した瞬間にリトは掴みかかりベビードールを引きちぎりながら、回し蹴りを食らわせる。

 

「こんな服、誰が着るか!」

 

 顔を真っ赤にして怒るリトに、ジークは蹴られた頬を擦ってあっけらかんと言う。

 

「冗談が通じない方ですね」

 

「じゃあ、本当に冗談だったのか?」

 

「いや、まあ、着てくれたらそれはそれでうれしいですね。私も男なので」

 

 リトは黙ってもう一度回し蹴りを反対の頬に食らわせた。

 

「冗談なのに……」

 

「もうお前の言うことなんか信じないぞ! それよりも早く軽い服を寄こしてくれ! このコルセットがきつくてたまらないんだ」

 

 初めは内心よろこんでいたドレスであるが、食事を終えると膨らんだ胃袋とあばら骨をコルセットが締め上げ苦痛でたまらなかったのだ。

 

「軽い服といったらこれくらいしかないそうですよ」

 

 蹴り上げられた頬を撫でながら魔王がメイドより服を受け取って、リトへ手渡した。

 

「いったいどんな……」

 

 手渡された服を広げると、袖が床につくほど長く、丈も長い。つまりは拘束衣であった。

 しかしリトはよろこび「おお! あるんじゃないか!」といいながら袖の部分を手で引きちぎり、ついでに丈も短く千切ってしまった。

 心なしか残念そうなジークに礼を言い、別の部屋でメイドたちに手伝ってもらいながらリメイクした拘束衣に着替え、今にいたる。

 

 メイドたちもリトを部屋まで送り届けようとしたが「一番初めに目覚めた部屋で寝ればいいんだよな? 一人で行けるから大丈夫だ」と伝えると下がってくれた。

 

「というか、今思い返せば魔王の奴、あんなスケベ服を出せるのならまともな服も出せたのでは? あーあ。アイツのことはよくわからないな。……悪いヤツではないんだろうけど」

 

 リトも今では逃げ出したり、むやみにジークを討とうとは考えていない。

 刻まれた首元の印がある限り、逃げ出すことに意味はない。それよりも、彼が提示してきた『子リス族を引き取る』という言葉に、心が揺れていた。

 

(村のみんなは……どう思うかな)

 

 リトには想像できない領域である。

 悶々と考えていると、突然リトは頭を掻きむしった。

 

「あーっもう、わからん! それにこんなに一人で考えていても答えなんかでないし、考えるだけムダムダ! こういう時は体を動かすに限る!」

 

 独り言にしては大きな声で呟くと廊下から離れ、庭のほうへかけていく。

 そこでちょうどいい大きさの木を見つけると、立ち止まった。

 

「やっぱり一日の終わりには体を動かさないとな」

 

 前世の記憶に気付いてから、朝と夜には欠かさず訓練をしている。もちろん前世で行っていたメニューをできる限り再現する。

 唯一組み手はできないため、木を相手と見立てて型を繰り出していく。

 呼吸を整えると、心の中が無になる。

 さきほどまでの悩みが嘘のように消えていった。

 しかし、気配を感じ、リトは振り向き、構える。

 

「休んでくださいと言ったのに、あなたって人は……」

 

 木の陰から現れたのはジークである。

 

「体を動かしていた方が休まる」

 

「見事なほどに脳みそまで筋肉でできているんですね。――それにしても興味深い動きです。独学ですか?」

 

 問われ、リトは視線をそらした。

 

「……偉大な、師匠がいる」

 

 センチメンタルな気分を振り払うように、リトは明るい声を出す。

 

「そんなことより、見ていたんなら練習の相手をしてくれないか?」

 

 

→8.拳を交え、心を通わせ

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