4.彼はお茶目な悪の王【ワケあり勇者】

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「というのは、半分冗談なのですが」

 

「なっ」

 

(コイツ魔王のクセに冗談なんて言うのか……。ん? 半分冗談?)

 

 引っ掛かりを覚えたリトであるが、魔王が話始めたため思考が遮られた。

 

「これから話す内容は真面目なものです」

 

 魔王はついてきたメイドたちに目くばせすると彼女らは静かに部屋から立ち去っていく。パタリと扉が閉められると、二人きりになってしまう。

 部屋が静かになると、魔王は真剣な表情でリトを見つめた。

 

「この城には私の背中を預けられるものがいません」

 

「……へ?」

 

「国の情勢から説明いたしましょう。この魔国デジナは私が統治してからというもの、平和で国民全体が安定した生活を送っています。その背景には私が膨大な魔力を持ち、なにより優れているということと、そもそも魔族というものが自己主義なものが多く――」

 

「ちょ、ちょっと待った! 頭の悪いアタシでもわかりやすく話してくれ! まったくわからない!」

 

「えー……ではですね……」

 

 魔王は宙を見て視線を泳がせ、話す内容をまとめているようだ。

 

「簡単に言いますと、この国は私一人が統治しています。私はとても優秀なので人間の国のように大臣などはいません。なぜなら魔族という生き物は基本的に自分勝手で自由奔放だからです」

 

「な、なるほど?」

 

「そこであなたに私のボディーガード兼、秘書兼、騎士指導係兼、妻になってほしいのです」

 

「どうしてそうなる?!」

 

 ツッコまれた魔王はまたしても動きを止め、難しい言葉が飛んできそうだと判断したリトは手を振って制した。

 

「と、とりあえず、お前が私になにかしらの役職を与えたいのはわかった! それはなぜだ!」

 

「それはとても簡単なことですよ」

 

 魔王は口元を歪めて笑って見せた。

 

「あなたの腕を認めているからです。この優秀な私を欺き、傷をつけられるほどの実力者であると評価しています」

 

(なんでさっきから自分の優秀さをちょくちょくアピールしてくるんだ……。でも、まあ、アタシのことを褒めてくれているみたいだし、それはちょっとうれしいかも……)

 

 内心照れるリトであったが、魔王は言葉をつづけた。

 

「だから、あなたを魔王軍に迎え入れたいのです」

 

 その一言でリトはハッとする。

 

「ア、アタシが魔王軍なんかに入るわけがないだろう! どう考えたらそうなるんだ!」

 

 ツッコまれて魔王は再び考える仕草をしたあと、思いついたように手を打った。

 

「……セカイノ ハンブンヲ ヤロウ」

 

「真剣な表情でアホなことを言うな! それはハイを押したらダメなやつだから!」

 

(くぅ~……コイツに付き合ってられない!)

 

 足がまだ拘束されていることなど、頭の片隅にもなかったリトは立ち上がろうとして案の定ふらついた。

 

 魔王が手を手を伸ばし、抱き寄せる。

 

「危ないではないですか」

 

「なっ!」

 

 抱きしめたまま離そうとはしない。

 

「ふふふ。私が誰かに触れることができるだなんていつぶりでしょうか」

 

「なにをバカなことを言ってるんだ! 離せ! このっ! このっ!」

 

 手をばたつかせ、魔王の胸を拳で打つがびくともしなかった。

 普通のものならリトの馬鹿力で胸を殴られれば、痛みでうずくまるほどだろう。

 魔王は痛がるどころか、楽しそうにリトの頭をクシャクシャと撫でている。

 

(くっ……コイツひょろい見た目のわりに鍛えてる!)

 

 リトが顔を上げると、魔王と視線がぶつかり柔らかくほほ笑まれる。

 

「あ、あああアタシは! 絶対に魔王の手下になんかならないからな!」

 

「ふふふふ、かわいいですねぇ」

 

 魔王は子どもの強がりはほほ笑ましいとでもいうように、リトの頭を撫で続ける。

 

「バカ! 撫でるのをやめろ! アタシは逃げる! 逃げるからな!」

 

 抱きしめていた魔王の腕を振り切ろうとしたが、そのまま腕をひかれたかと思うとベッドへ放り投げられた。

 舌なめずりをしながら、魔王が近づいてくる。ベッドに乗りあがると、リトに覆いかぶさった。

 

「それなら、逃げられないほどの辱めを与えてあげましょう」

 

「な、なにを!」

 

 魔王が抱きしめるように羽交い絞めにしてくる。戸惑いながらも、ドキドキと高鳴る胸にリトは一瞬反応が遅れてしまう。

 魔王の長い髪がリトの頬をくすぐった。

 

(お花みたいな、甘い匂いが……っ!?)

 

 リトの首筋に魔王の唇が触れる。

 

「お、おい!? なにをするつもりだ!」

 

 手足をバタつかせるが、相手は答える様子もなく首筋に唇を何度か押し付けたかと思うと、ぬるりとした感覚がリトを襲った。それが魔王の舌であると気付くとさらに激しく抵抗した。

 

「ひゃっ! ひゃぁあ! や、やめろ! アタシはいま、すっごく汚いぞ! な、舐めるなぁ~っ!」

 

「汚くなんかありませんよ。でも、ふふふ、ちょっとしょっぱいですね」

 

 指摘されるとリトの体が熱を帯びる。

 今にも泣きそうなほど両目に涙を溜めた。魔王の言う通り、どんな拷問よりも屈辱的だ。

 なぜならリトは、前世でも恋人ができたことがない。

 男のように育てられ、周りからもそういう認識で接されてきた。

 

「や、やめてぇ……」

 

 口から漏れる情けない声も初めてだ。

 ふと、飴玉でも転がすように舐めていた舌が引っ込められると柔らかな唇が再び押し当てられた。そうして次の瞬間、首筋に歯を立てられたのだ。

 筋に歯が食い込み、ごりゅりと音がした。

 

「はぐっ!?」

 

 噛まれて吸われ、リトが暴れる気力も失っていると魔王が離れていった。

 

「すみません。そこまでする必要はなかったのですが、あなたはなかなかどうして魅力的な方なんでしょう。私としたことが自分を抑えることができませんでした」

 

 リトは噛まれた首筋を押さえつつ、横たわったまま魔王を見上げていた。

 

 

→5.勇者の涙

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