3.魔王の思惑【ワケあり勇者】

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「ん……」

 

 リトが目を覚ますと、うつ伏せに眠らされていた。

 手は後ろで拘束され、両足もぴったりとくっつけられている。

 

「いったたた……くぅうぅ……」

 

 痛みとともに記憶がよみがえる。

 つぎつぎと襲い掛かってくる魔物兵たちを一人ひとりなぎ倒していった。

 不思議なことに魔王はその様子をみているだけで、リトが最後の一人を投げ飛ばすまでニヤニヤとしていた。そうして、倒れた兵が山のように積み重なったところでリトは魔王の魔法によって拘束され気絶させられたのだ。

 リト自身、たくさんの兵を相手にしてまったく無傷だったわけではない。

 兵は当然剣と鎧を持ち武装している。リトは魔王との戦いで剣を失い、魔法の杖は乱闘で踏みつけられて壊れてしまっていた。

 なんとか己の肉体だけで切り抜けたが、それでも全身打撲と擦り傷切り傷だらけだ。

 おまけに無理に拘束されたためか、右肩が外れかかっている。

 苦痛で表情を歪めながら芋虫のように体をくねらせて横向きになった。

 

「え?」

 

 驚きで目を見開く。

 

(てっきり地下牢にでも閉じ込められてるのかと思った)

 目の前に広がっている部屋は地下牢どころか、全体的にピンクでかわいらしくまとめられた部屋だ。

 繊細な模様が彫られた木製の家具、縦のラインが入った上品な壁紙、リトには価値がわからないが、のどかな風景の絵画も飾られている。視線を下ろせば、ベッドにもレースがふんだんにあしらわれていた。汗や泥にまみれた衣服が汚していて、リトは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

(こんなきれいなベッドに寝かされるくらいなら、まだ地下牢のほうがよかったな。それにしてもかわいい部屋だ……)

 

 生前のリトは女の子らしい部屋に憧れていたことを思い出し、目を細めた。

 

(懐かしいなぁ……。アタシの部屋はシンプルで男っぽくて小学生の時は嫌だったっけ。お姫さまに憧れてたけど、親父に言えなかったな……)

 

 物思いにふけっていると突然部屋の扉が乱暴に開けられた。リトは驚いて身をすくめると、扉を開けたのは魔王だ。後ろには白黒の仮面をつけたメイドが四人、均等に立っている。

 

「目覚めましたか」

 

 余裕な様子の魔王であるが額には包帯をまき、頬にはガーゼが貼りつけられている。

 そんな姿でも美麗な魔王は、流し目さえもリトをドキリとさせた。

 

(くっ……コイツがこれからアタシがどうするつもりか、皆目見当がつかない。だけど、弱気になってはだめだ。情けないが、隙あらば逃げだすしか道はない)

 

 リトはキッと魔王を睨んだが、彼はそれに小さく溜め息をついて見せるだけだった。そのまま近づき、椅子に腰かける。

 

「気分はどうですか?」

 

「……拘束を解け」

 

「いいですよ」

 

「へ?」

 

 魔王が指を弾くと、手の拘束がするりと外れた。

 

「また大暴れされては困るので手の拘束だけ解きます。それに、肩が外れているんでしょう?」

 

「どうして、それを……」

 

「見ればわかります。どれ、私がはめてあげましょう」

 

 椅子から立ち上がると、リトをベッドからていねいに起き上がらせてくれる。

 なにが起こっているのかわからないリトはただ茫然と魔王の横顔を眺めていた。

 

「か、肩くらい自分ではめられる!」

 

「遠慮しないでください。これ以上痛めたらどうするんです。ほら、息を吐いて、力を抜いてください」

 

 穏やかに言われ、リトは言う通りに息を吐いた。

 魔王の手によって一気に肩を入れられる。すると、さきほどまでリトを襲っていた倦怠感と痛みがずいぶんマシになったようだ。

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 しばらく二人の間に沈黙が流れたが、リトは言葉を選びながら話し始めた。

 

「……どうして親切にしてくれるんだ」

 

 魔王は表情を崩さず、口元だけ笑ってみせた。

 

「親切にするのは、あなたから信頼を得るためです」

 

「なぜだ」

 

「なぜ……ですか。しいていうなら、あなたに興味が湧きました」

 

「アタシに……?」

 

 魔王は頷いた。

 

「単刀直入に言いますと、あなたを私の妻にしたいと思っています」

 

「妻ァ!?」

 

 驚きのあまり叫び、体の傷に響いたリトはすぐに「イタタタタ」とうずくまったものの、恨めしそうに魔王を見た。

 

→4.彼はお茶目な悪の王

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