2.美しい魔王【ワケあり勇者】

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「小リス族ならなおさら森に帰りなさい。君の剣の腕がたつことは認めます。若いのに一人で城へ乗り込む勇気、私を欺くほど気配を消すのもお上手です。ですが、今の君では私を討つことなどできないでしょう」

 

「……軽口をたたけるのも今のうちだ」

 

 不敵に口元をゆるめると、リトは腰ベルトから小さな杖を取り出した。

 

「ほう、魔法も使えるのですか」

 

 魔王が興味深そうに眉をぴくりと動かした。

 どこからともなく氷のツララが現れ魔王に降り注ぐが踊るようにすり抜けられてしまう。

 

(くそ……。早い……!)

 

 呪文を唱えながらリトは生まれて初めて焦りを感じていた。生前を含めてこれほど強い相手に会ったことがない。魔王はツララの攻撃をよけながらリトに近づき彼女の手首を掴んだ。

 

「……っ!」

 

 手首を掴む彼の手は、それほど力はこもっていなかったが思わず杖を落としてしまった。

 

「チェックメイト、ですね?」

 

 リトは苦痛に表情を歪めた。

 

(負けるわけにはいかない。父さんと母さんと村のみんなを救うって約束したんだ……。こんなところで……。でも、魔法はよけられるし、剣術も見えないなにかに弾かれてきかなかった……)

 

 悔しさで目にいっぱい涙をため、それでも零れ落ちないように唇をギュッと結んでいる。

 

「絶対、諦めない……」

 

「なにもそんなに泣かなくたっ――」

 

 魔王の言葉は途中で遮られた。

 リトは掴まれた手首を引き寄せて外すと、彼に背を向けた。小リス族のしっぽが魔王の頬を撫でる。次の瞬間、振り向くようなしぐさで空中回転蹴りをキメていた。魔王の顎にリトの踵がクリーンヒットする。

 

「ン゛ッ!?」

 

 魔王は鈍い声を上げ、体が宙を舞い、そのまま硬い大理石の床に音とともに落ちた。

 

「……当たった」

 

 リトは息を切らしながら倒れている魔王を見据える。

 

「剣術も魔法もきかなかったのに、武術なら……」

 

(それにあの技は『親父』の)

 

「グッ……ふふふ……」

 

 不気味な笑い声とともに、魔王は起き上がった。それでもかなりダメージは与えられているのかよろめいている。床にぽたりと血が垂れた。魔王はそれを見て肩を震わせた。笑っているようだ。

 

 リトは間合いをとって慌てて構える。

 魔王が本気をだしていないことはわかっていた。実力差があることもわかっている。それでも引き下がることはできない。

 

「ま、魔王、さっさと降参しろ! 次はもっとスゴイ技をキメる!」

 

「それはおもしろいですね。あなたに興味が湧きました」

 

 ふらふらと立ち上り、魔王は高笑いをした。

 謁見の間の扉が開き、ぞくぞくと魔物の兵がはいってくると、あっという間にリトを取り囲んだ。

 

「小リス族の娘、私を楽しませてくださいね」

 

 魔王らしくほほ笑むと、顎をクイっと兵たちに指示を促した。

 

 

→3.魔王の思惑 

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